母と子を描いた優しきまなざし ― 画家メアリー・カサットの生い立ちと絵の魅力

か行

 
 
美術館の静かな展示室で、一枚の絵に見入ってしまったことがあります。母親が赤ちゃんを優しく抱きかかえ、ほほえみながらその手に触れている瞬間。その絵の前に立ったとき、まるで時間が止まったような感覚になりました。

絵の中には騒がしい現実世界とはまるで違う、静けさとぬくもりがありました。後でその絵の作者が「メアリー・カサット」という女性画家であることを知りました。

彼女は19世紀末から20世紀初頭にかけて活躍したアメリカ出身の画家で、印象派の一員としても知られています。けれども彼女の描く世界は、他の印象派の画家たちとはどこか違う、もっと私たちの生活に近く、しっとりと心に染みるのです。

今回は、そんなメアリー・カサットの人生と作品について、自分なりの視点でつづってみようと思います。

 

 

メアリー・カサットの生い立ちとは?

 

メアリー・カサットは1844年、アメリカ・ペンシルベニア州の裕福な家庭に生まれました。父は株式仲買人、母は教養豊かでフランス語にも堪能な女性。そんな家庭に育ったカサットは、当時の上流家庭の娘たちの多くと同じように、良妻賢母になることが期待されていました。

でも彼女はその「期待」にまっすぐには応じませんでした。美術に対する強い情熱をもち、なんと16歳のときにフィラデルフィアのペンシルベニア美術アカデミーに入学。これは当時の女性としては非常に珍しい決断でした。

しかも、まだ美術学校の女性受け入れ体制が整っていない時代。女性であるというだけで、真剣に芸術を学ぶことすら批判されるような風潮の中、彼女は大胆にもその道を進みました。

1870年代にはフランス・パリに移り住み、ルーブル美術館で模写を繰り返しながら技術を磨いていきます。やがて、エドガー・ドガとの運命的な出会いを果たし、印象派グループの一員として正式に加わることになりました。

ドガとは終生、芸術的な刺激を与え合うパートナーでもありました。

 

メアリー・カサットの絵とは?

 


 
 
メアリー・カサットの作品には、母と子をモチーフにしたものが数多くあります。特に「入浴」(1891年)や「青い肘掛け椅子の少女」(1878年)などは、彼女の代表作として知られています。

しかし、ただ「母子像」を描いただけではありません。そこにあるのは、現実にある親子のぬくもり、触れ合い、ささやかな幸福感なのです。例えば、子どもを抱いた母の腕が、そっと子どもの背中を支えている。

その姿に、何か言葉にしがたい感情が流れています。育児の中にある喜びと、ほんの少しの疲れ、そして深い愛。

「母性」を理想化しすぎず、でも否定することもなく、ありのままの姿で描いているのが、カサット作品の特徴です。女性画家だからこそ感じ取れる日常の中の繊細な一瞬を、彼女はまるで詩のように描いているのだと、私は感じます。

 

メアリー・カサットの絵の特徴とは?

 

メアリー・カサットは印象派に分類される画家ですが、その中でも彼女のスタイルは一線を画しています。

第一に、彼女の作品は室内空間が多く、静かで落ち着いた雰囲気が漂います。モネやルノワールのように風景や光を追いかけるのではなく、カサットは人間、特に女性や子どもに焦点を当てました。

色使いも非常に洗練されていて、派手さはないのに目を惹きつけられます。彼女が影響を受けた日本の浮世絵のように、平面的で装飾的な構図を取り入れた作品も多く、それがまた新鮮な魅力を生み出しています。

たとえば「乳母と子ども」(1890年)では、日本画のような抑制された背景と、穏やかに配された色彩、そしてそこに生きる人々の自然な表情。このバランス感覚は、まさにカサットならではのセンスです。

 

最後に

 

私自身、車椅子ユーザーとして日常の中で「助けられる側」として見られることがあります。でも、カサットの絵を見ていると、助け合うとか、見守るとか、そういう力の関係を超えた、人と人とのぬくもりを感じるんです。

母と子だけではなく、誰かと誰かが静かに寄り添う時間。それを絵で伝えることができるって、本当にすごいことだと思います。

メアリー・カサットの作品には、派手なドラマも、劇的な瞬間もありません。でも、日常の中にある一番大切なことを、丁寧にすくい上げて描いています。だからこそ、見る人の心に、すっと染み込むのでしょう。

もし今、ちょっと疲れていたり、人の優しさを感じたいときは、ぜひカサットの作品に触れてみてください。そこにはきっと、あなたの心をそっと包み込んでくれる何かがあります。

 
 

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