夜中にふと目が覚めてしまう時があります。静まり返った部屋の中で、壁のシミが何かに見えたり、暗闇の中からこちらを見つめる目があるような気がしたり。そんな不気味さを形にできる人間なんて、世界中探してもなかなかいないだろうなと思うんです。
でもH・R・ギーガーという画家は、その「恐怖と幻想の境界線」を形にすることができた人でした。
私は普段は風景画やかわいい動物の絵が好きで集めているのですが、ある時ネットで見かけたギーガーの絵がずっと頭から離れなくなりました。
金属と肉体が融合したような不気味なフォルム、冷たいのに妙に生々しいその線。気になって調べていくうちに、このH・R・ギーガーという画家の人生そのものも絵と同じくらい不思議で引き込まれるものがあると知りました。
H・R・ギーガーの生い立ちとは?
H・R・ギーガー(本名:ハンス・ルドルフ・ギーガー)は、1940年にスイスのクールという街で生まれました。お父さんは薬剤師で、家にはガラス瓶や薬品が並んでいたそうです。
ギーガー少年はそれらに囲まれながら育ち、薬品瓶の中の奇妙な色合いやラベルの字体などが幼い頃の記憶として残っていたといいます。
子どもの頃から「死」や「機械」に対する強い興味を持っていたそうで、骸骨の模型を握りしめて遊んだり、地下室に隠れては怪奇映画のポスターを描いたりするような子どもだったと伝わっています。
こういう部分だけ聞くと暗い少年時代だったのかなと思ってしまうけれど、ギーガー自身はそれを楽しんでいたようです。
若い頃は建築を学びましたが、自分が本当にやりたいのは「形にならない恐怖を描くこと」だと気づき、美術の道へと進みます。グラフィックデザインを学びながら夜はエアブラシを使って作品を作り続け、スイス国内で徐々に注目を集めていきました。
H・R・ギーガーの絵とは?
ギーガーといえば、何といっても映画『エイリアン』のクリーチャーデザインで知られています。あの映画を見た人ならわかると思いますが、あの不気味でどこか美しさすら感じさせるエイリアンの姿は、一度見たら頭から離れません。
あの造形はギーガーの絵そのものだったと言っていいと思います。
彼の絵は多くが「バイオメカノイド」と呼ばれるジャンルに分類されるもので、機械と肉体が融合した独特の世界観を持っています。
金属的な冷たさ、脊髄のように連なるパーツ、女性の身体の曲線が不自然に機械に取り込まれ、無機質なのにどこか生きているような、不気味だけど目を離せない構造です。
私が特に衝撃を受けたのは『Necronom IV』という作品で、これがエイリアンの直接的な原型になった絵です。細長い頭部、無数のチューブのようなパーツ、艶のある黒と灰色の色調。見ていると不安になるのに、なぜか「美しい」とも感じてしまうんです。これって不思議な感覚ですよね。
H・R・ギーガーの絵の特徴とは?
ギーガーの絵の特徴は、エアブラシを駆使した滑らかなグラデーションと、どこか官能的な雰囲気にあると思います。暗い色調の中に金属的な光沢を感じさせる表現は、彼自身の中にある死生観や性的なものへの探求心が織り込まれているように感じます。
彼の描く「女性」は、肉体的な美しさを持ちながらも機械的な部品のように無機質で、恐怖と美が紙一重で同居している印象です。生と死、官能と恐怖、機械と肉体。この相反する要素を、一枚の絵の中に自然に融合させることができる画家は、世界中を探してもそう多くはいないでしょう。
またギーガーの絵には「不気味さの中の居心地の悪さ」があります。壁いっぱいに描かれたモノクロの怪物たちが、こちらを見ているようで見ていないようで、その不気味さこそがギーガー作品の魅力なのだと思います。
最後に
H・R・ギーガーの絵は、ただ「不気味」という言葉だけで片づけられるものではありません。死や機械、性的なものへの好奇心、恐怖の裏にある美しさ。それらを全部抱え込んだ絵だからこそ、私たちの心に不安を植え付けながらも、目を逸らせなくなるのだと思います。
私自身、車椅子ユーザーとして生活する中で、夜中に自分の体が思うように動かない恐怖を感じることがあります。その時に思い出すのは、ギーガーの描く「動けないのに生きている何か」の姿です。
動けないけれど生きている。恐怖と共に生きている。それを絵にしてくれる存在がいることで、どこか救われる気がするのです。
もし今、あなたが不安や恐怖の中で眠れない夜を過ごしているなら、ぜひ一度H・R・ギーガーの絵を見てみてください。その中に自分の恐怖を映し出す鏡のようなものがあり、恐怖と共に生きていくヒントが隠されているかもしれません。
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