少し肌寒い朝、いつものように車椅子で窓際に移動し、ぼーっと空を眺めながらコーヒーを飲んでいると、ふと思い出したのが「色」と「線」で心を描いた画家、ワシリー・カンディンスキーのことでした。
正直に言えば、美術館で彼の絵を見たとき、最初は「何が描いてあるのか全然わからない」というのが率直な感想でした。でも、不思議と目が離せなかったんです。色の集まり、線の流れ、形の動きが、心の中で何かを刺激してくるような感覚がありました。
それからカンディンスキーについて少しずつ調べていくうちに、「ああ、この人は絵で音楽を奏でようとした人だったんだ」とわかってきたんです。
ワシリー・カンディンスキーの生い立ちとは?
カンディンスキーは1866年にロシアのモスクワで生まれました。意外なことに、もともとは画家ではなく、法律と経済学を学んでいたエリートだったんです。
30歳になるまではモスクワ大学で法学の教鞭を執っており、裕福な家庭で安定した将来が約束されていたような人生を歩んでいました。
転機となったのは1895年、29歳のときにモスクワで開かれた印象派展でモネの「積みわら」を見たことでした。絵の中で色が溶け合い、具体的な形から解放されていくような感覚に衝撃を受け、「自分もこんな風に色で心を表現したい」と思うようになったそうです。
周囲の反対もあったはずですが、彼は法学のキャリアを捨て、30歳にしてドイツのミュンヘンに渡り、本格的に絵の道へ進みます。この「遅咲きのスタート」が、逆に彼の絵に深みと哲学性をもたらしたのではないかと、私は感じています。
ワシリー・カンディンスキーの絵とは?
カンディンスキーの絵を語る上で欠かせないのが「抽象絵画」という言葉です。写実的に何かを描くのではなく、色と線の組み合わせで感情や音楽的リズムを表現することを目指した彼は、「絵画の抽象化」を推し進めた先駆者の一人とされています。
私が車椅子で出かけたとき、運良く出会えた作品「コンポジションVII」を目の前で見たときは、まさに「色の嵐」のようでした。渦を巻くような線と、衝突するような赤や青の色面、それでいて全体が不思議な調和を奏でている。
説明できないのに心が動く絵って、あまり多くないと思うんです。でもカンディンスキーの絵は、わからなくても惹き込まれてしまう力を持っています。
彼は「色彩は鍵盤であり、目はハンマーであり、魂は多くの弦を持つピアノである」という言葉を残しています。この言葉の通り、彼にとって色は音であり、線はリズムであり、絵は視覚的な音楽だったのだと思います。
絵を前にしたときに、自分だけの音楽が聞こえてくるような感覚、それこそがカンディンスキーの絵の真骨頂なのではないでしょうか。
ワシリー・カンディンスキーの絵の特徴とは?
カンディンスキーは単に色を並べただけの画家ではなく、「内的必然性」という独自の哲学を大切にしていました。これは「外見の正しさ」ではなく、「心の必然性に基づいて色と形を選び、表現する」という考え方です。
例えば「黄色」は明るく鋭く、突き刺さるような音を持つ色であり、「青」は深く静かで心に沁み込むような色、と彼は捉えていました。
また、線についても単なる輪郭線ではなく、動きとリズムを伝える大切な要素として使っています。曲線は柔らかさや流れを、鋭い直線は緊張感や衝撃を伝えるために描かれているのです。
私自身も、カンディンスキーの絵を見ながら、自分の心が今どんなリズムを刻んでいるのかを感じ取るようにしています。疲れているときは「カオス」に見えた絵が、元気なときには「エネルギー」に見える。
そんな風に、見る人の心の状態によって印象が変わるのも、カンディンスキーの絵の魅力のひとつだと私は思います。
最後に
ワシリー・カンディンスキーは「見て理解する絵」ではなく、「見て感じる絵」を描いた人でした。私は車椅子で生活する中で、「視界の高さ」や「座る姿勢」で見る世界の形が変わることを日々感じています。
カンディンスキーの絵も同じで、立って見るとき、座って見るとき、近くで見るとき、遠くで見るとき、それぞれで違う景色を見せてくれるんです。
「抽象画って難しそう」と思うかもしれません。でも、カンディンスキーの絵はわからなくても大丈夫で、「わからないまま眺めているうちに自分の心が揺れる瞬間」を味わう絵だと思います。
絵の前で深呼吸して、少し長めに眺めていると、不思議と自分の心の中の音楽が聴こえてくるような感覚になるかもしれません。
もし美術館でカンディンスキーの絵に出会う機会があったら、肩の力を抜いて、色と線が自分の中にどんなリズムを運んでくるのかを感じてみてください。それがきっと、カンディンスキーが「絵で音楽を奏でたかった」という想いに触れる瞬間になるはずです。
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