美術館で偶然出会った一枚の大きな赤い長方形。ぱっと見ただけでは「これがアート?」と思ってしまうかもしれません。でも、その前に立ってじっと眺めていると、なんとも言えない静けさや力強さがじわじわと心に染み込んでくる。
まるで深呼吸するように心が整っていくのを感じるのです。
この不思議な感覚をくれたのが、エルズワース・ケリーというアメリカの画家の作品でした。色も形もシンプル。でも、だからこそ伝わってくるものがある。今回は、そのケリーの生涯や作品、そしてその魅力について、ひとりの素人ブロガーとしてじっくり綴ってみたいと思います。
エルズワース・ケリーの生い立ちとは?
エルズワース・ケリーは、1923年にアメリカのニューヨーク州ニューバーグに生まれました。ごく普通の家庭に育った彼ですが、幼い頃から自然や動物に強い関心を持っていたそうです。この「自然へのまなざし」が、後々の作品に大きな影響を与えることになります。
ケリーは戦時中、アメリカ陸軍に従軍し、迷彩の設計や地図製作などに携わりました。この体験が、彼の「形を見る力」や「空間を把握する感覚」に磨きをかけたとも言われています。
戦後、彼は美術を学ぶためにボストン美術館付属美術学校に進学。その後、GIビル(復員軍人援助法)の制度を利用してパリに渡り、ヨーロッパの芸術に触れながら、自分のスタイルを模索していきました。
ケリーにとって、パリで過ごした6年間はまさに「目覚めの時代」でした。ピカソやモンドリアン、マティスなどの影響を受けつつも、彼は自分なりの方法で「見たもの」を抽象化し、色と形だけで世界を表現する道を見出していったのです。
エルズワース・ケリーの絵とは?
エルズワース・ケリーの絵を一言で表現するのは難しいのですが、「シンプルなのに強烈」とでも言えばいいでしょうか。彼の代表作には、「レッド・ブルー・グリーン」や「イエロー・カーブ」など、たった一色だけで構成された巨大なキャンバス作品が多くあります。
普通なら、色彩のグラデーションや陰影を使って立体感を出すのが絵画の常道ですが、ケリーはそれをほとんど使いません。むしろ、色をフラットに塗ることで、そこにある「形」そのものが主役になるように設計されています。
また、彼の作品は壁に掛けるだけでなく、時には彫刻のように立体として展示されることもあります。金属やファイバーグラスなどの素材を使い、まるで建築物の一部のような存在感を放つのです。これも彼の「形」へのこだわりが強く表れた一面です。
エルズワース・ケリーの絵の特徴とは?
ケリーの作品を語るうえで欠かせないのが「色」と「形」です。そして、それらは必ずしも写実や物語を語るために使われているわけではありません。彼にとって色とは、それ自体が感情であり、形とは、それ自体が生命を持つ存在でした。
たとえば、ケリーは自然の中で見かけた葉の形や、建物の影、窓枠の構造などからインスピレーションを得ることが多かったようです。でも、それをそのまま描くのではなく、抽象化して、要素を削ぎ落とし、最終的には色面とフォルムのみに還元してしまうのです。
これは一見「何も描いていない」ように見えるかもしれません。でも、じっと見ていると、そこに“静けさ”“広がり”“緊張感”があるのがわかってきます。
ケリーの作品は、見た瞬間にわかるものではなく、見る人自身の感性や体調、気分によってまったく違う表情を見せてくる、そんな不思議な力を持っています。
また、彼の作品には「左右対称」や「黄金比」といった、視覚的な心地よさを誘う構造が巧みに仕込まれており、それが理屈ではなく感覚で「美しい」と感じられる要因になっているように思います。
最後に
エルズワース・ケリーの絵は、決して派手でもなく、説明的でもありません。それなのに、何度も見たくなり、また、見るたびに違う印象を与えてくれる不思議な魅力があります。
それはきっと、彼が色や形と誠実に向き合い、自然から感じ取ったエッセンスを削ぎ落として、純粋な表現として昇華させたからこそ生まれるものなのでしょう。
私は、ケリーの作品を見るたびに「静けさの中に宿る強さ」を感じます。そして、そんな感覚こそが、忙しい現代社会を生きる私たちにとって、必要な癒しやインスピレーションなのかもしれません。
もし、近くの美術館でエルズワース・ケリーの展示があれば、ぜひ足を運んでみてください。絵の前に立つだけで、言葉では言い表せない感情に包まれるはずです。
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