美術館の静かな空気が好きだ。静かで、車椅子の自分でも誰にも急かされずに、自分のペースで絵の前に座っていられる時間はとても贅沢だと思う。この前、イタリア美術の資料をめくっていたら「アゴスティーノ・カラッチ」という名前が目に飛び込んできた。
あれ?カラッチってアンニーバレ・カラッチじゃなかったっけ?と思って調べると、なんと兄弟で画家だったのだという。しかもアゴスティーノの方は版画家でもあり、弟の才能を支えるように自分の道を歩んでいたというから驚いた。
芸術家の人生って、いつも孤独で苦労ばかりのイメージがあった。でもアゴスティーノ・カラッチの人生を知ると、兄弟で支え合いながら芸術の道を進む姿が見えてきて、なんだか私自身が励まされた気持ちになる。
今日はその「アゴスティーノ・カラッチの生涯と絵の魅力」を、自分なりの視点で紹介していきたい。
アゴスティーノ・カラッチの生い立ちとは?
アゴスティーノ・カラッチは1557年にイタリアのボローニャで生まれた。弟には有名なアンニーバレ・カラッチ、そして従兄弟のルドヴィコ・カラッチがいて、カラッチ家は芸術一家だったと言える。
貧しい家庭だったと言われるが、アゴスティーノは若い頃から文字を学び、詩や学問にも親しむ知識人だったそうだ。
そして彼は版画家としても活躍していた。今でいうところのイラストレーター兼印刷技師のような立場で、絵を描くだけでなく、銅版画を作って広く世に配布する役割を果たしていたらしい。
弟アンニーバレは絵画で有名になるが、アゴスティーノは自分の技術を活かしながら兄弟の活動を支えていたのだ。
その後、兄弟と共に「カラッチ工房(アカデミア・デッリ・インカミナーティ)」を設立し、当時の硬直した美術教育に風穴をあけるような革新的な指導を行い、多くの若い画家を育てることにも貢献した。
この家族の結束力と行動力は、当時のイタリア美術の中でも重要な転換期をつくったと言われている。
アゴスティーノ・カラッチの絵とは?
アゴスティーノ・カラッチの絵は、弟アンニーバレほど有名ではないけれど、実は細部に魂が宿っているような静かな強さを感じるものが多い。彼は版画作品も多く残しているが、宗教画も描いており、ボローニャだけでなくパルマやローマでも作品を残している。
有名な作品の一つに『最後の晩餐』があるが、弟と比べると穏やかで、構図がしっかりしており人物の表情も温かい。銅版画の作品ではティツィアーノやコレッジョの作品を版画化し、それを通じて巨匠の技法を広く普及させたとも言われている。
印刷技術の無かった時代に、彼の版画は「学びのための美術書」のような役割を果たしていたのだ。
実際、彼の版画をじっと眺めていると、細い線で描かれた人物の衣のひだや光の当たり方から、当時の空気感が伝わってくる気がする。今も静かなアトリエの机に飾りたくなるような繊細さと品格を持った作品が多い。
アゴスティーノ・カラッチの絵の特徴とは?
アゴスティーノの絵の特徴は、まず「線の美しさ」にある。版画家としての経験がそのまま絵にも活かされており、人物の輪郭が丁寧で、曖昧さが無い。それでいて冷たくなく、柔らかい線で形作られているのが特徴的だ。
また、彼の作品には穏やかな色使いが多く、明るすぎず暗すぎず、柔らかい光が射し込むような落ち着きがある。宗教画においても劇的なポーズよりも自然な仕草が多く、見ている側も構えずに作品と向き合えるのが魅力だと思う。
弟アンニーバレの方はドラマチックでエネルギッシュな作品が多いが、アゴスティーノの絵は少し控えめで誠実さを感じる。これはきっと、版画で多くの名画を模写しながら学び取った技術と、兄弟を支えてきた彼の性格がにじみ出ているのだろう。
最後に
「有名な画家は弟だったけれど、兄の支えがあったからこそ弟が羽ばたけた」──アゴスティーノ・カラッチの人生を知って、私はそんな風に感じた。地味だけれど確実な仕事をする人がいて、その積み重ねで文化や芸術は広がってきたのだと思う。
車椅子で外に出られない時間が長くても、こうして画集をめくって知らなかった画家の人生を知るたびに、新しい窓が開いたような気持ちになる。これを読んでくれた人にも、アゴスティーノ・カラッチの静かな絵を一度見てみてほしい。
きっと美術館で一人座り込んで眺めたくなるような、優しくて力強い線があなたの心にも残ると思う。
今日も読んでくれてありがとう。また、美術館で出会った静かな絵についても書きたいと思うので、その時はまた読んでもらえたら嬉しい。
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