前に美術館で、車椅子をゆっくり動かしながら展示室を巡っていたとき、ふと足が止まりました。いや、正確には車輪なんですけど、それでも本当に「足が止まった」と言いたくなるほど、僕の心がピタッと静けさの中に吸い込まれた瞬間でした。
広場のような空間、長い影、動かない時間。作品の前で息をすることさえ忘れてしまうような感覚。日常の景色なのに、まるで夢と現実が交わる隙間に入り込んだよう。そんな世界を描いたのがジョルジョ・デ・キリコなんです。
今日は彼の生い立ちと絵、その不思議な魅力について、僕なりの視点でお話ししてみようと思います。
ジョルジョ・デ・キリコの生い立ちとは?

デ・キリコはイタリアで生まれ、幼い頃をギリシャで過ごしました。鉄道技師の父を持ち、線路や駅といった風景が身近にあったそうで、その体験がのちの作品にも大きく影響している気がします。
異国で育つことは、きっと世界を見る目を自然に広げてくれたのでしょう。僕自身、外に出るときは車椅子なので、周りの視線や段差、風の音そして空の広がりを、歩く人とは違う角度で感じることがあります。
それは不便さもありますが、同時に「世界の小さな気配に気づける目」をくれるものでもあります。デ・キリコもきっと、自分の視点を大切にしながら心の中の風景を育てていったのではないでしょうか。
ジョルジョ・デ・キリコの絵とは?
彼の絵を見たとき、言葉にならない不思議さが胸に広がります。誰もいない広場、遠くを走る汽車、宙に浮かぶような彫像。現実そのものではないけれど、どこかで見たような、または夢の奥に残っていたような光景が広がります。
僕は時々、静かな夕方に独りで外を眺めることがあります。風が止まり、街が少しだけスローモーションになる瞬間。あの感じに似ています。騒がしい現実の中にあるのに、そこだけ世界が別の速度で流れているような。デ・キリコの絵は、その「ズレ」を見せてくれるんです。
ジョルジョ・デ・キリコの絵の特徴とは?
彼の作品で印象的なのは、長く伸びる影と静止した建物、そして古典的な彫像。光はあるのに温度が感じられず、音のない世界が静かに広がっています。遠くには小さく汽車の煙が見えるのに、近くには誰もいない。
普通は安心するはずの明るい広場なのに、なぜか胸の奥にざらっとした感覚が残るんです。こうした世界観は、現実の景色をただ描くのではなく、心の中にある影と光をそのままキャンバスに映したように感じます。
僕も時に、車椅子に座りながら人々の足音が遠くに聞こえる場所で、自分だけ別の時間にいる気持ちになることがあります。静けさは怖さでもあるけれど、同時に安心にもなる。デ・キリコの絵は、そんな相反する感情をそっと抱きしめてくれるようです。
最後に
デ・キリコの絵は、派手でもなく、説明のしやすい絵でもありません。でも静かに心に染み込み、そこにある「沈黙の意味」を教えてくれる気がします。日常の中で立ち止まる勇気をくれるというか、静かな場所にこそ深い気づきが生まれるということを思い出させてくれます。
僕も、急いで生きるより、ひとつひとつの瞬間を味わう方が好きです。車椅子の速度だからこそ見える景色があり、感じる温度があります。デ・キリコの絵に触れたとき、皆さんもぜひ時間を忘れて、静寂の中に潜む物語に耳を澄ませてみてください。
そこにはきっと、自分自身の心の声がそっと響いています。
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