絵画の世界には、静かな力で見る人の心に入り込むような作品がある。派手さはないのに、目の前に立ち止まらずにはいられない絵。バルテュスの絵を初めて見たとき、私はそんな不思議な吸引力に引き寄せられた。
車椅子を使うようになってから、外に出る機会は以前より少なくなった。それでも、美術館を訪れると、静けさと作品の存在感が、私の内側の感情を動かしてくれる。特にバルテュスの絵は、日常の場面がそのまま描かれているのに、どこか現実とは異なる空気をまとっている。
人物の視線は宙を漂い、部屋の中に張り詰める静寂が、こちらの呼吸までも変えてしまうかのようだ。私はその緊張とも安堵ともつかない空気を味わうたびに、「生きる」という行為の不思議さを思い出す。
日常の中に潜む不思議さに気付かせてくれる。それが、私がバルテュスに惹かれ続ける理由かもしれない。
バルテュスの生い立ちとは?

バルテュスことバルタザール・クロソフスキ・ド・ローラは、1908年にフランスで生まれた。父は画家、母は作家と芸術に囲まれた環境で育ち、幼い頃から独自の感性を育んだと言われている。
10代の頃には、すでに画家としての才能を発揮し、猫をテーマにした出版物を制作した。猫は彼の人生において象徴的な存在だった。芸術家の家庭に生まれたからといって順風満帆だったわけではなく、時代の混乱や戦争を経験しながら創作を続ける道を選んだ。
彼は、公の場に多く語らない人物としても知られ、作品そのものが言葉の代わりに語っているような印象がある。私は、静かに自分の世界観を深め続けたその姿勢に強く惹かれる。
身体が思うように動かない日でも、じっと内面の感覚を研ぎ続ける。そんな生き方と重なる気持ちがある。
バルテュスの絵とは?
バルテュスの絵は、少女をテーマにした作品で知られている。一見、日常のありふれた瞬間を描いているように見える。部屋でくつろぐ姿や、本を読む姿、眠っている場面など。
しかしよく見ると、風景の静けさの奥に、言葉にならない緊張が息づいている。その緊張は単にモデルの姿勢や表情によるものではなく、画面全体に漂う静謐な空気から生まれている。
また、空間の構築が独特で、家具や背景の配置が意図的に均衡を崩しているようにも見える。それによって、目に見える現実と心の中で感じる現実がずれ始める。私自身も、病院に通う生活の中で、外の世界と内面の感覚に違和感を覚えた経験がある。
バルテュスの絵を前にすると、そのズレが視覚として提示されているようで、言葉では説明できない共鳴を感じてしまう。
バルテュスの絵の特徴とは?
バルテュスの絵の最大の特徴は、静けさの中に漂う緊張感だと思う。人物はほとんど視線を合わせず、感情を読み取れる表情も見せない。それなのに、強烈な存在感がある。
まるで、絵の中の時間が止まってしまったかのようだ。筆致は丁寧で、輪郭線は柔らかい。色彩は抑えられ、陰影が空間の奥行きをつくる。そして、背景の意味が重要に感じる。家具の配置や壁の角度、光の差し込み方など、空間そのものが物語を語っている。
少女のポーズは何気なさを装っているが、どこか不自然さを含んでいる。そのアンバランスが、見る者の感情を揺さぶる。私は、身体に制約がある日常の中で、動けない時間に潜む緊張を身をもって知った。だからこそ、バルテュスの描く静止した瞬間に、息遣いや体温までも感じ取れる。
最後に
私は、バルテュスの絵を通じて、目に見えない感覚や内面のざわつきを丁寧に見つめるきっかけをもらった。絵を見るという行為は、自分の感覚と向き合うことでもある。
誰かが語った答えではなく、自分の内側に生まれた感情や違和感を拾い上げていく時間なのだと思う。車椅子で生活していると、動ける範囲が限られたり、周囲の視線を気にする日もある。
それでも、絵の前では自由になれる。作品が語りかけてくる声に耳をすませ、自分自身の内面に触れることができる。バルテュスの絵は、静かに問いかけながら、私の感性を揺さぶり続けてくれる。これからも、何度でも向き合いたい画家だと感じている。
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